沈下修正工事は、「建物を残す」と決めた時に、一番最初に来る工事です。
建物を残すための計画は「足元」、つまり地盤の話から始まります。傾いた建物を真っ直ぐに戻すことが最優先で、補強の方法や意匠をどう整えるかを検討するのは、その後です。
令和6年1月の能登半島地震から、2年半が経ちました。
金沢から車で3時間ほどかかる奥能登には、今も傾いたままの建物が残っています。
その現場で、地盤改良・沈下修正を手がけるアースシールド(以下:当社)と共に動いていただいているのが、東京都町田市に本社を置く佐々木社寺株式会社様です。社寺建築や数寄屋建築、重要文化財の保存改修を数多く手がけてきた宮大工の会社で、能登の復興のために、現地にも拠点を置いています。
能登での取り組みと、傾いた建物を残すために何から考えるべきかを、佐々木社長に伺いました。
💡 沈下修正工事そのものについて知りたい方へ
工法の種類(グラウトタイラー工法・アンダーピーニング工法・耐圧版工法・土台揚げ工法)や費用の目安は、[沈下修正工事とは] のページで解説しています。
能登半島地震の被災地で、宮大工と地盤の会社が出会うまで
—佐々木社寺様が能登に入られたのは、令和7年の夏のことでした。能登に関わられるようになったきっかけを、お聞かせいただけますか。
佐々木社長:東京で一緒に仕事をしていた、伝統建築(木造構造設計)をやられている先生のところに伺ったら、「来週から能登の調査に入るんだけど、佐々木さん興味ない?」と聞かれまして。それなら是非、と一緒に現地調査に行きました。令和7年の7、8月頃のことです。
奥能登、珠洲の方に入ると、改修は全く進んでいませんでした。色々な大学等が入って調査は動いていたものの、皆さん「施工業者が見つからない」というところで行き詰まっていたといいます。ここに拠点を置かなきゃ、と決められたのが1年ちょっと前のことです。
—一方、アースシールド(以下:当社)が能登に入ったきっかけは、石川県で新築工事を担当している工務店様からの一言でした。
佐藤:「珠洲のほうで仕事があるから、沈下修正に行ってくれないか」と言われたのがきっかけです。何件かやらせていただいている最中に知り合った方を通じて、佐々木社長とご一緒させていただく形になりました。
正直に申し上げると、最初は「宮大工」という言葉がピンと来ていなかったんです。基本的に新築工事の仕事ばかりやってきましたので…
お話を聞けば聞く程スケールが大きくて、自分が関わっていいのかな…とも思いました。
依頼するとき、躊躇はなかったのか
―佐々木社寺様にとって、地盤はまったく知らない職種の工事です。復興の現場そのものも、初めての経験でした。拠点もない時期には、ボランティアの方々が寝泊まりする公民館で、ヨガマットを何枚か重ねて寝るところからのスタートだったといいます。
依頼する時には色んな業者が寄ってくる、とも聞きました。その中で、アースシールドに依頼するとき、躊躇はなかったんでしょうか。
佐々木社長:それはやっぱり「人」ですね。誠実で、話しているうちに与えていただく安心感がある。
地盤って、絶対に基礎になる部分じゃないですか。そこを任せるので、信頼感がないと成り立たないと思うんです。
あとは、力強さがありますよね。下から支えるというところもそうですし、作業してくれている職人さんたちも含め、復興の現場で一番頼りにされる職種だな、といつも思います。
—復興需要のなかで沈下修正を手がける会社は増え、単価も上がっています。そのなかで、決め手になったことは何だったのでしょうか。
佐々木社長:お寺の修理となれば億単位の工事になり、檀家数の減少等で寄付も期待しにくい。限られた予算のなかで、何をどこまでやるかを決めていく必要があります。
その中で、私の最初からの動き方が、お客さんの建物一つひとつに対して「何ができるか」を考えながら動く、というのが軸なんです。ですから、かっこいい話ばかりされても困ってしまう。
「本当だったらここまでやりたいけれど、この金額しかない。どういう案があるだろう」という話ができるかどうか。そこがすごく大きかったです。
気になったことがあったらすぐに電話をかけて、「こういう計画をしたいんだけど、どう思いますか」と聞ける。その関係性がすぐに築けたのが、本当にありがたかったです。
私も、できるだけ何でも断らないようにしているんです。硬く考えてしまうと、何もできなくなってしまうので。そういうところは、近いものを感じますよね。
佐藤さんは柔軟に考えていただけるので、当てにさせていただけるだろうなと思います。
石場建ての沈下修正―「揺らす」ために、足元を考える
―この現場で難しく、そして面白いのは、建物の話と地盤の話が地続きになっていることです。
佐々木社長:伝統的な木造は、構造体を釘で緊結しません。組み合わせて積み上げているだけです。木は湿度で毎年、緩んだり締まったりを繰り返します。つまり構造体は、いつでも緩い。その緩さがあるからこそ「緩やかに揺らす」ことができる。バランスさえ整っていれば、揺れても元に戻ります。逆に、開口の多い建物をガチガチに固めてしまうと、バランスが崩れてねじれ、そこから壊れてしまう。固めるだけではなく、緩めるという考え方です。
お寺さんは、たいてい後ろに山を背負っています。すると、後ろから前にかけて、だんだん弱い層が深くなっていく。傾向としては前に沈み込み、前に倒れるんです。しかも正面側は開口が多く、構造的にも緩い。だったら前だけ杭で固めたほうがいいのか、という発想になる。そういうところを地盤と一緒に話せているのが、今は本当に大きいですね。
施工のスピードだけを考えれば、建物を動かしてしまったほうが早いと思います。でも、古い建築は敢えてそうしないんです。
石を残したまま、どう起こすか。石ごと持ち上げようとすれば石そのものが不安定で、鋼管を圧入してジャッキで復旧する「アンダーピーニング工法」もかなり難しくなります。
薬液注入で固めるのか、石は下がったままの位置にして建物側で起こすのか。「できるだけ動かさない」という前提のなかで、ギリギリの線を探っています。
現場から―折れた柱と、いまも続く相談

―昨年、当社が薬液注入を担当した建物があります。地域でも古くから知られる、文化財の指定を受けている建物です。1階の開口の大きい部分で柱が途中から折れており、最初に中へ入ったときは、怖くて居られないほどだったといいます。
佐々木社長:当初は「揺れて、弱い部分で折れた」と見て、折れた柱を差し替えてバランスを整える計画でした。
ところが再検討の過程で、別の見解を持つ先生が加わります。「これは座屈だ。柱が上からの荷重を支えきれずに折れたのだ。」という指摘でした。
結果、補強方針は柱の周りに材料を足して、鉛直方向の耐力を持たせる方向へ大きく変わりました。
令和8年7月時点では、引き屋が足元にワイヤーをかけて起こし、ほぼまっすぐな状態まで戻したところです。足元の部材を交換・継ぎ足しし、そこから下ろして、石を据えて固定していく段階にあります。
― 工事を終えられての満足度は、いかがでしょうか。
佐々木社長:建物にもお客さんに対しても、私たちもまだ100点にはいけないので、学びながらやらせていただいています。同じケースが無い中で対応していくということもありますし、私自身、地盤についてはまったく無知なところから始まっていますから。
最初にお客さんと話しながら計画を作るところから相談させていただいて、それは今も同じです。連日、色々と相談させてもらっています。
「残す」と決めたら、沈下修正がいちばん最初に来る―「共に働き、学ぶ。」
佐々木社長:沈下修正というのは、まず「建物を残す」ところから計画が始まります。更地にして新しい家を建てる選択肢もある中で、今は新築の単価がすごく上がってきています。建て替えにかかる金額を考えれば、今ある建物を起こして使い続けるほうが、かけた費用に対して得られるものは大きい。補助金が使えるから、というだけではありません。
傾いたまま暮らせないことはありません。ただ、昔の家は布基礎ですから、建物全体がぐにゃぐにゃに変形します。すると建具が開かなくなったり、閉まらなくなったりして、生活そのものがしにくくなる。床が傾いている、というだけの話ではないんです。沈下修正で建物を起こせば、そうした不具合も元に戻すことができます。
—だからこそ、検討する順番が大切だと佐々木社長は言います。
佐々木社長:自分たちの残したいものを「残す」と決めたとき、一番最初に来るのは地盤の修正です。建物をどう補強するか、意匠をどう整えるかを考えるのは、その後になります。まずは足元から検討していただきたいですね。
—佐々木社長は現在、現場に掲げる幕を作っています。現場を何日かかけて回りながら話す中で生まれたのが、この言葉でした。
「共に働き、学ぶ。」
災害復興の現場は、佐々木社寺にとっても、当社にとっても初めての経験でした。これまで接点のなかった職種の方々と出会い、役所への申請の仕方から学びながら進めてきました。そして能登での取り組みは、まだ途中です。
佐々木社長:お客さんが「直したい」と思っているうちに動かないと、時間がかかりすぎれば諦めてしまう。実際、諦めて解体された方もたくさんいらっしゃいます。だから、とにかく断らずに「何とかしましょう」とお受けしてきました。能登の復興は、まだここから10年はあるでしょうから…とにかく、一緒にやり切りたいですね。
—佐々木社長、ありがとうございました。当社もさらに勉強を重ね、提案の幅を広げてまいります。
🏠建物の傾きは、原因によって適した工法が異なります。お困りの建物がございましたら、まずはご相談・お問い合わせください。
取材協力
- 店名
- 佐々木社寺株式会社
- 所在地
- 〒195-0063 東京都町田市野津田町158-5
- TEL
- 042-708-9044


